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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1461号 判決 1968年2月28日

控訴人

手塚喜代作

右代理人

松井一彦

中根宏

被控訴人

三菱自動車販売株式会社

右代理人

大林清春

藤井正博

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は審究の結果、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)  右に引用する原判決の認定した各事実に徴すると、本件自動車(加害車)の輸送のための運行すなわちいわゆる陸送は、注文主を被控訴会社、請負人を訴外加藤車体工業株式会社(以下加藤車体という)とする、シャーシー車架装加工の請負契約にともなう架装加工後の完成車引渡という義務の履行としてなされたものというべきところ、<証拠略>により認められる本件加害車につき、そのシャーシー車の加藤車体への搬入については、被控訴会社の依頼により、被控訴会社と同一系列にあり、かつこれに専属する訴外ふそう陸送株式会社が行なつたこと及び本件事故当時までに被控訴会社が、本件加害車の陸送にあたつた国際陸送株式会社(以下単に国際陸送という)に対してなんらの下請をもさせていなかつたこと並びに被控訴会社と加藤車体との関係、加藤車体と国際陸送との関係に徴すると、被控訴会社は加藤車体に対しその所有に属する本件加害車の架装を請負わしめてこれにシャーシー車を引き渡し、加藤車体は架装を終つた加害車を再び被控訴会社に引き渡すため国際陸送との運送契約により国際陸送をして本件加害車を被控訴人指定の引渡場所たるその東京支店まで陸送せしめたのであり、かような関係において考えれば国際陸送の担当運転者として本件加害車の運行に当つた石山孝太郎に対して、直接第一次的に指揮監督を及ぼしているのが国際陸送であるほかに加藤車体もまた国際陸送をとおして間接に支配を及ぼしていると認めることは可能であり、後記のとおりの陸送業者の実体を考えると加藤車体そのものが直接運転者を支配していると見ることすら可能であるけれども、右加藤車体を超えてさらに被控訴会社もまた右の運行について指揮監督をしているものと認めるのは困難であるから、本件加害車の運行支配が被控訴会社に帰属するものとはなし難く、右の点からも被控訴会社は本件加害車の運行供用者とはいい難い。

<証拠略>によると、本件事故当時国際陸送はいわゆる陸送業を目的とする会社とはいえ、事実上は、電話一本の設置してある僅かばかりの坪数の事務所及び運転手とからなる、いわば運転手の集団ともいうべき、ほとんど無資産の零細業者であることが認められ、しかも弁論の全趣旨によると、少くとも本件事故当時においても、一般に自動車の製造業者及び販売業者は、事実上ほとんど国際陸送のような零細ないわゆる陸送業者により、製造もしくは販売した自動車の陸送をしていたことが認められ、この意味では当該運行については前示石山孝太郎のほかに独立に国際陸送の存在を考える実質的な理由はなく、これを包括して一個の運転者たる地位を有するものと解することはでき、かような意味でかかる零細な運送業者を利用した者はみずからその運行を支配したものと評価されることはあり得るけれども、本件においては被控訴人は国際陸送をみずから撰んで陸送に当らせたのではなく、これを右の業務に当らせたのは他の企業体である加藤車体であつて、その間被控訴人が加藤車体を指導支配して間接に当該運行を支配したものと認めるべき特段の事情は認められないから、前示のような一般的な状況があることはなんら前記結論を左右するものではない。

また<証拠略>によると、前示ふそう陸送株式会社が、国際陸送及びその第二会社である有限会社横浜国際陸送に対してふそう陸送株式会社横浜営業所なる名称の使用を許諾していることが認められるけれども、<証拠略>によれば、それは本件事故後のことであることが認められ、そのことからさかのぼつて直ちに本件当時にも同様の密接な関係があつたものというべきではないから、前記結論には何らの妨げとなるものでないこと明白であるというべきである。

(二)  <証拠略>によれば、被控訴会社東京支店においては、本件事故当時、自動車の販売業務を行つていたことが認められ、右事実と右に引用した原判決理由二の(1)記載の各事実並びに弁論の全趣旨によると、本件運行は、加藤車体の運行依頼によつてなされてはいるが、経済的には被控訴会社が本件加害車を右東京支店において受け取り、これを転売して利益をうるための前提となり、その企業活動の一環となつていることが認められる。しかし、その企業活動の系路は生産されたシャーシー車の購入、架装を経て需要者への販売及びこれらの各段階にともなう商品の輸送にあるが、被控訴人はそのすべての段階を自ら営んでその利益を集中統一的に把握しているのではなくて、その間シャーシー車の製造は三菱重工業株式会社、架装は加藤車体というように数個の独立企業主体を関与せしめ、その相互の間は取引契約によつて連絡し、本件の運送行為はさらに加藤車体が自己の責任において国際陸送をして当らしめているのであつて、一個の貨物自動車の生産販売という経済行動の流れの中に数個の企業主体が参加して協同するとともにその各自はこれから各自の段階に応じて分業しその利益を分配取得しつつまたその危険をも分散負担しているのがその特徴であるから、たまたま本件運行が経済的には被控訴人の企業活動の一環をなすからといつて、そのことから当然に本件運行による責任を被控訴人に帰属せしめることはできない。もつともこれに関与する他の企業体がたんに法律的形式的にのみ別個独立の存在であつて、資本や人事を通じ経済的実質的には他に従属しているような場合はその独自性を捨象して企業活動の一体性を認めてさしつかえないというべきであろうが、本件において加藤車体がこのような意味で被控訴人に従属している実質は認めるべきものがなく、むしろ同社はたんに被控訴人のみならず、その競争者である日野自動車等の注文による架装も行つていたこと前記引用にかかる原判決理由説示のとおりであるから、もとより右結論に影響はないといわなければならない。

控訴人の所論は、不当に加藤車体の介在を無視するものであつて採用しがたい。

(三)  被控訴会社が本件加害者の所有者であることは当事者間に争がないけれども、自賠法上、所有者は当然責任主体となるべきものとは、その文理上、解することはできないし、その企業活動の流れの中における他の企業主体の関与のもとでなされた本件の運行について所有者なるが故に当然責任を有するものと解すべき合理的根拠もない。また当時行われていた強制責任保険制度によつては、本件被害者の保護が全うされないからといつて、そのことは制度の改善を要求する原因とはなつても、そのことの故にほしいままに賠償能力ある者をえらんで責任主体に拡張して組入れるべきものではない。陸送業者ないし架装業者がその業として行う運行にたえず自賠法による事故の責任がともなうとすればその危険は運送賃ないし架装賃の中に負担せしめることによつて解決をはかるべきであつて、その責任主体を他に求めるのは本末を顛倒するものというべきである。その他本件にあらわれた全証拠によるも、本件運行を被控訴会社のためにするものとなすべき特段の事情は認め難い。

(四)  <証拠判断略>他に右認定をくつがえすに足る当審における的確な証拠はない。

(五)  控訴人は被控訴会社が民法第七一五条による使用者責任を負うべき旨主張する。

前段認定の事実に徴すれば、本件においては、車体架装につき被控訴会社が注文者、加藤車体が請負人の地位にあるところ、加藤車体がさらに第三者たる国際陸送もしくは石山孝太郎を使用しているとき、右第三者が本件運行の際本件事故を惹起したというべきところ、前段認定の事実によると、外形上本件運行が右請負にかかる加藤車体の事業の範囲内に含まれることは明らかであるけれども、前示のように加藤車体は被控訴人とは別個独立の存在であつて注文者たる被控訴会社とはたんに取引上の契約関係によつて結ばれているのみであつて、直接間接その指揮監督を受けているものとは認め難いので、本件運行のさい惹起された本件事故が結局において被控訴会社の事実の執行についてなされたものとはいえないものというべく、控訴人の右主張はその余の判断をなすまでもなく、理由がない。

二よつて控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべく、これと同趣旨の原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。(浅沼武 柏原允 間中彦次)

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